少年は

少年は前を向いて走っている。少年は疑うことを知らない。少年はただ信じている。信じているという自覚もなく信じている。
少年の瞳には夢が映っている。少年の夢にはあこがれの舞台で活躍する未来の自分が描かれている。少年の描く未来の自分はまぶしい太陽の光と大歓声とに包まれている。少年はその太陽に負けるとも劣らず、まぶしい。
きっとこの高台から一瞬だけ見える夜の町並みに臨んでも、少年は私のようにこれをきれいだとは思わないだろう。まぶしい少年のまなざしにあっては、この町並みは、まぶしいとみなされるだけのまぶしさが足りない。でも、この平凡な町並みの平凡な美しさ。これもひとつのまぶしさだと思う私を乗せて、バスは再び走り出した。また、乗客は私だけになっている。