あなたも探していませんか?

先日お宅訪問した際、部屋にあったのを見つけ、欲しいと言ったら本当にOTくんがくれた(?)本。かなり読みたいと思っていた本だったので嬉しかった。読了。

自分探しが止まらない (SB新書)

自分探しが止まらない (SB新書)

タイトル通り「自分探し」が止まらない現代の若者論、と見せかけ、若者のみにとどまらず現代社会の構造そのものを論じた一冊。そもそもは現代の労働問題を扱おうとスタートした企画だったそうで、むべなるかなといった感じである。
まず世の中を斜め45度ぐらいから見下ろし、痛烈に批判する姿勢がたまらない。だめな人はだめかも知れない。私は基本的に、就活に際しても「自己分析なんかくそくらえ」というスタンスの人間なので、筆者の論調に共鳴しやすい土台が確かにある。しかし読み終わったときに、「批判ばかりしていても生産性はないか。それに代わる何かを提示していないのが、強いて言えば欠点かなぁ」と思ったら、あとがきでその点に言及されていた*1
本書でいう「自分探し」とは、「若者を中心とした人々が、現在の自分ではなく、本当の自分を知ろうとしたり、あるべき自分の姿を求めたりする行為」(3)である。その具体的な現象として、中田英寿を筆頭に海外に飛び出ていく(貧乏旅行、バックパッカーとしてインドとかそこらへんを旅しちゃう感じ)若者たち、逆に内に籠ってしまうひきこもり、就職活動の際の自己分析、フリーター、あるいはテレビ番組『あいのり』などが挙げられている。それらの原因を一概に現代の若者の心性に帰して「これだから近頃の若者はけしからん」などと言うのではなく*2、自分探しをせざるを得ない若者たちを生み出した教育、そういう教育を要請した経済界、それによって変わった労働スタイル、などとの関連を明示していくのが心地よい。特に学校教育のあり方については、土井隆義『友だち地獄のサバイバル』と通ずる部分も多く、なかなかエキサイティングだった。そして、自分探しとは自己啓発に他ならないこと*3、それが80年代のニューアカから連綿と繋がる系譜であることを論じていくあたりはまさに爽快。
『友だち地獄〜』でも触れられていたが、あるかどうかも疑わしい「本当の自分」なるものを探して、そのまなざしがどんどん自己の内へ内へと向かっていくのがこの世代の悲哀であるらしい。「本当の自分」をめぐる懊悩はどの世代にも共通の経験だとしても、元来それを克服するためには自己の相対化という手法が採られていたはずだ。それが、たとえば個性化教育の負の結果として、「本当の自分」は生得的なものであり今はわからなくとも自分に必ず備わっている、それを見つけなければならない、と強迫的に考えられるように変わってきたのだ。言われてみれば、そのような言説は巷にいやと言うほどあふれている。就職にしても、「なんでもやります!」ではだめで、自分が活かせる仕事を予め探さなければならなくなったわけだ。そんなの就活の時点で分かる訳ないだろと声を大にして言いたい。
「自分探し」に明け暮れて幸せな人生が送れるのなら別に構わないのかも知れないが、本書では「自分探し」を逆手に取るようなビジネス「自分探しホイホイ」の存在が指摘されているので要注意。そもそも、それらホイホイは、今更指摘されてもどうしようもないほどに、巧妙にかつ身近なところに多々埋め込まれているのであるが。現代の風潮に肌の合わない感じを覚えるひとはもちろん、「自分探し」大事なことじゃん!ってひとにも是非読んでもらいたい。面白くて読みやすいです。

追記:本書はタイトルが非常にキャッチーで優れていると思うのだが、帯がさらに刺激的である。「こんな若者にはもううんざり!」と、超デカ字で書いてある。でも、著者の立場としては若者に徹底的に幻滅しているわけではなさそうなので、その点ちょっとそぐわないかなと思った。

*1:「本書が自分探しの若者をテーマにしながらも、彼らをそこから救うような手だてについて何ひとつ提示できていないことは気がかりではある。」(217)

*2:そもそも著者自身が1975年生まれの団塊ジュニアなわけだが

*3:私はそれが気持ち悪くて、就活のとき自己分析はうけつけなかった。結局ちょっとかじったけど