心の空洞を埋める

4限に出るまでの30分間だけ読むはずが、気づけば1時間経過していた。さよなら4限。結局ちょっと読み飛ばしてしまった部分もあるけど、読みましたぞ。

AV産業―一兆円市場のメカニズム

AV産業―一兆円市場のメカニズム

「AVは私たちの性文化にどのような影響をもたらすのか?成長を続ける産業の実態はどのようなものか?それは女性の性をないがしろにするシステムとなっていないか?」というような問題意識のもと、男女各100人を対象にAVに関する意識調査を実施、また、実際に撮影現場を見学したり、AV制作会社やモデル登録事務所にインタビューしたりするなど業界の裏側に迫り、その社会的意味を問うルポルタージュ。問題意識の始まりの始まりとしては、女性である著者自身はAVを必要としていないが、確固たる需要があるからこれほど供給されているのだろう、ではどういう人が必要としているのであろう?といったところだったと思う。
手始めに男女各100人に対するAV意識調査を行っているのだが、対象が著者の知り合いに限定され、しかも回収率が男性50%・女性55%と芳しくなく、この結果をもってどの程度「AVに対する意識が明らかになった」と言ってよいのかは甚だ疑問である。卒論レベルとあまり変わらないような気もする。このようにちょっと中途半端感が否めない部分もあるのだが、AV産業の歴史を辿ることで、業界構造そのものが“自転車操業”状態にあることを明らかにし*1、そのひとつの帰結として「レイプ」ものが隆盛している*2というのは興味深い指摘であると思った。しかしこれだけでは依然として、「レイプ」ジャンル人気(まぁ本当に人気があるのかどうかは分からないが)の理由の説明にはなっていない。そこはもっと強く主張してもよいのではないかと思った。
卒論に関係あるかと思ったら殆ど関係ない方向に議論が展開していったが、そこそこ興味深く読めた。特に目新しい記述があったわけでもないが、映画『ピアニスト』の主人公の女性を例に挙げ、「性的欲望は本能ではない」と述べているところは印象に残った。「性の知識は人間が本能的に持っているものではなく、その人が育つ社会環境の中で身につけていくもの」このことに自覚的なひとは、特にこのホモフォビアに満ち満ちた世の中において、どれくらいいるのだろうかと思った。と卒論に関連付けてみる。
とにかく、一兆円市場とも言われる巨大産業であるにも関わらず、その構造はいびつであり、結局女性は搾取されているのではないか、ということか。「だってこれ、仕事でしょ」「儲けてるんだからいいじゃない」などと思っている方、ぜひご一読を。
あと、これを斜め読み。
引きこもるという情熱

引きこもるという情熱

面白い視点ではあったけど、ちょっとそれは買いかぶりではと思わなくもなかったり。他の著書も読んでみないことには何とも言えない。
実は文学部3号館図書館はこれがお初でした。手回し式書棚が楽しい。

*1:AVは1980年代、ビデオデッキの普及と共にその黎明期を迎える。80年代半ばから90年代半ばにかけては「作れば売れる」AVバブル期にあり、制作会社が乱立。それが「質より量」状態を呼び起こしたとされる

*2:脚本は不要、出演者の演技力も不要。素人同然の女優が拒否する行為こそが最も「迫真の演技」になるという理屈。ひどい!!!