愛されたいなんて願いは煩悩よね

変わった小説を読みました。少し前、『犬身』という小説で話題になった著者の作品。

親指Pの修業時代〈上〉

親指Pの修業時代〈上〉

主人公の女性・一実の右足の親指が、親友の死後、突然男性器(=P)に変化する。それをきっかけに繰り広げられる、恋人との別れ、新しい恋人や、自分と同じく「異形」と呼ぶべき人々との出会い、そして性的志向の変化が、きわめて冷静に描かれている。と思う。こう書くと、ちょっと趣向の変わった恋愛小説かと思われるかもしれないが、この小説の主題は恋愛というよりは明らかにセクシュアリティー。自分がいかに凝り固まったセクシュアリティーの妄想とでもいうべき観念にとらわれているか、はずかしくなるほどに示唆に満ち溢れた小説だと思う。ジェンダーや、何よりセクシュアリティーに関して、普段考える機会のないひと、考える必要性を感じていないひとにこそ読んでみてもらいたいなと思った。