歌う、それがかえるの憲法だ

なんとなくテレビを見ていたら、NHK教育で「あの人に会いたい」という番組をやっていた。

「NHKに残る膨大な映像音声資料から20世紀の歴史に残る著名な人々の叡知の言葉を今によみがえらせ永久に保存公開する「日本人映像ファイル」を目指す番組」らしい(上記サイト)より。
私が見始めたときは、堀口大學の回だった。堀口の作品をたぶん殆ど読んだことがない浅学な私だが、その慎重で正しい語り口が印象的だった。というのは、編集の加えられていないインタビュー映像が使われていたのだが、それだけで充分に話の内容が理解できたのだ。何を当たり前のことを、と言われるかも知れないが、話ことばで、内容を理路整然と伝える、というのは難しいことだと思うのだ。ニュース番組に登場する「専門家」の話なんて、大抵は素材の段階では何言ってるんだかさっぱり要点もわからなくて、切って(=編集して)初めてまともな文章になるのだ。加えて堀口の表現は端正であった。晩年の氏が「日本語の美しさが身にしみる」と言うのが身にしみた。
続いて草野心平が始まり、こちらは全部見た。かえるのことを詠い続けた詩人である。全部、といっても10分間の番組なのだが、なんだか感動してしまった。どうしてかえるの詩を書くのか、かえるのことが好きなのかと問われた草野は、「好きというわけじゃないが……」と語りだす。かえるのことを「連中」と呼ぶところに、深い愛着が垣間見える。かえるの世界には総理大臣も兵隊もいない、連中は頭が悪いけど人間なんかよりずっと昔から*1地球に生きている、その生命力だ――草野はそんなふうに語っていた。そういうふうにかえるを見る人がいるのかと思うと、軽い衝撃すら覚えるような感じがした。ただ単に「かえるの生命力がすごい」ということばで片づけない、感性と姿勢の問題である。
自作の詩を朗読する映像や、酒とベートーヴェンをこよなく愛したという草野が宴席で皆に「第九を歌おう!」と呼びかける映像など、10分間とは思えぬほどの充実した内容だった。中学校のとき、確か「春殖」というタイトルでひらがなの「る」だけが一行並んだ詩を読んで、分かったような分からないような気持ちになったものだが、今日この10分間で草野のことをすっかり好きになってしまった。私が単純だという説もあるが、これは実にいい番組だと思う。NHKにはこの路線で頑張ってもらいたいものである。けるるんくっく。

*1:ジュラ紀かららしい。初めて知った