最近の一気読み×2

告白

告白

翌日も仕事だったにも関わらず,日付変わってから一気読みしてしまった自分のばかばか。読み始めは,あまりの物語の芝居くささというか“出来過ぎ感”が鼻につき,どことなくあざとく感じていたのだが,そう言いつつも先が気になってついつい読了してしまった。
物語の各章はすべて,異なる登場人物の独白から成る。手法自体は古典的だと思うが,この手法により改めて気づかされるのは,人間ひとりの立場から見えていること・理解できていることなどというのは本当に高が知れているということである。真実なるものを構築するためには複数人の視座が不可欠であるということ,そしてそれに最後の価値判断を下すのは自分自身だということ,こういう命題が通奏低音的に流れているのではないかと感じた。
また,私が読み始めた当初「あざとさ」を感じたのは,記号性みたいなものが過度に強調されているからではないかと思う。最初は,現代社会や家族の抱える問題,とか,中二病的「心の闇」とか,そういう要素があまりに記号的に扱われている気がしたのだと思う。うまくいえないけど。でも逆に,筆者はその記号性を逆手にとってこの物語を構築しているのではないかと思うようになった。うまくいえないけど。
なんだかんだ言って*1面白かったのだと思う。一気読みしたし。
ゼロの焦点 (新潮文庫)

ゼロの焦点 (新潮文庫)

こちらは休日一気読み。松本清張の長編は初めて読んだかも。かねてから金沢に行きたいと思っていたのもあって選んでみたが,金沢行きたい願望が特に増幅されるような内容ではなかった。2時間サスペンスのご当地ものとは違いますな。
はっきりとした謎解きは成されない本作。謎解きはあくまで主人公の心の中で成されます。しかし推理ものを読むといつも思うが,何でもない一般人が,近しい人の関わる謎を解くためとは言えここまでアクティブに動き回れるのはすごいと思う。自分なら無理だなといつも思う。
作者がこの作品に込めた思いは,この一文に集約されるのではなかろうか。

いわば,これは,敗戦によって日本の女性が受けた被害が,十三年たった今日,少しもその傷痕が消えず,ふと,ある衝撃をうけて,ふたたび,その古い疵から,いまわしい血が新しく噴きだしたとはいえないだろうか。

登場人物の言葉遣いがきれいであこがれる。映画も少し見てみたくなった(主演は納得しかねるけど中谷美紀木村多江はすき)。

*1:おきやはぎ矢作氏が「王道(=普通)のことを言うときには,(接頭辞的に)なんだかんだをつけるとよい」と言っていた。むべなるかな